グレンリベット、ロックで

「30分の小話」は大体30分間くらいしてた話をまとめてます。単話です。

2時間の小話

それは昨夜のことだった。

家のものが友達と食事に行くというので一人夕飯を済まそうと店を探した。馴染みの店は店主が椎間板ヘルニアの手術のため長期休業しており、せっかくの機会なので新規開拓を試みた。目をつけていたのは、帰り道にある馴染みの店に似たコンセプトの食事のできるダイニングバーと、看板もなく入り口にメニューのみが置かれたバー、の2店だった。その日も朝から食事をすることを忘れていて何も食べていなかったのだが、お腹は特に空いていなかったので、看板のないバーを選択した。

スモークがかった窓ガラスから中も伺えず、頼りは店先のメニューのみだが、女性らしい手書きの文字があり少し安心したのは秘密だ。

店内へ入ると客は誰もおらず、店主らしき女性が一人カウンターに座り水を飲んでいた。

「いらしゃいませ。」

「一人なんですけどいいですか。」

「お好きなところへどうぞ。」

カウンターの一番端に座り、灰皿を受け取る。

と、そのタイミングで入り口が開き、顔を赤若干呂律の回っていないスーツ姿の男性が4人入って来た。タイミングがタイミングだったため、「お知り合い?」と聞かれるが私は首を振って全否定する。私の周りでこんないわゆる品の悪い酔っぱらいかたをするのは自分くらいだ。

その4人の内訳的には50代が2名、30代が2名といったところか。その、30代のうちの一人が私の隣に座り、上司二人に連れられてきてパワハラだのなんだと話し出したのだが……距離が近すぎて、何度「ソーシャルディスタンス!」と距離取ったことか。そして、その4人組のうちの一番偉い人はなぜかカウンターの中に入って会話をしていた。これはもしや自分だけソーシャルディスタンスを保っているのではないか? と、今になって気がついた。やられた。

そして、キープされているボトルがあると見せてもらったのは宮崎の麦焼酎だった。

「すごい濃いから飲んでみて。」

とショットグラスに一杯ご馳走になった。確かに濃厚でまるでいも焼酎かのような香り、そして40度のアルコールが与える喉がカッと熱くなるあの感覚。すぐさま水を流し込む。

ただ、4人組のうちの50代男性2名は一口で空けていたのを見て、テキーラじゃないんだよ、と思ったのは言うまでもないだろう。そして、私に散々絡んできた若者がグラスを空けないと、空けろと強制していたので、ダメですよと何度か言ったのだがまぁ見ず知らずの人間の注意など聞くわけもなく、その後この若者は外で粗相をして連れて帰られた。

さて、なぜかおっさんが集まると、カラオケがしたくなるらしい。運が悪いことにこの店にはカラオケの設備があったのだ。もう、スナックじゃないかと誰もが思うだろう。

そして始まるカラオケ大会。このご時世にカラオケとかこいつら馬鹿か? と呆れたわけで、今思えばここで店を変えてもよかったんだよなぁと少し後悔をしている。

散々引っ掻き回してこの4人組が帰る時、これまた60代くらいの男性と同年代くらいの女性と男性の3人組が入って来た。どうも60代くらいの男性は常連のようで、この騒ぎっぷりに呆れていたのはもういうまでもないだろう。そうだろう。

 

その後、この3人組と店主、の5人で世間話をしてとても心地の良い時間を過ごしたのだった。また行ってもいいなと思ったが、行くなら2軒目だろう。なぜならフードが一切ないからだ。気がついたら、昨日は朝から食事をしていなかった。